「ねえ、今からウチ来ません?」 定期テストの近づいたある日、リョーマは手塚を呼び止め、そう声をかけた。偶然を装いはしたが、校門の近くで待ち伏せていたのだ。既に部活休止期間に入っており、こうでもしないとなかなか顔を見ることすらできない。 「勉強教えてよ」 「何を教えてほしいんだ」 いきなり呼び止められ、何事かという顔で立ち止まった手塚だったが、呆れたような顔をしつつもとりあえずはきちんと言葉を返してくれる。 「英語とか、数学とか…」 答えはしたが、本当は、そんなものどうでもいい。人に聞かないとわからないなどというほどのことはない。ただの方便というヤツだ。 「…国語は」 お前はそんなものより国語の成績が心配だ。見下ろす目が意地悪くそう語っている。 「…それも」 自覚のあるリョーマは、肩を竦めてしぶしぶ答える。 一体手塚が何を考えているのか、全くわからない。告白してからもずっとこの調子なのだ。男に告白されたことを嫌がっている様子もないのだが、かと言って積極的に受け入れてくれる様子もない。態度が全く変わらないというのは、完全に拒絶されることに比べれば有難いことではあるのだが、考えが全く読めないだけに、不安になる。自分は一体、この人にどう思われているのか。期待して良いのか、それともそんな期待をするだけ無駄なのか。 「お前、アメリカに行ってたんだろう。英語は得意分野ではないのか?」 そんなリョーマの気持ちを他所に、手塚はいつもの無表情で言葉をつなぐ。 「だって、あまりにくだらなすぎて逆にワケわかんないんスよ。アンタだって、この年でひらがなの問題なんて出されたら戸惑うでしょ? 俺にしてみたら、ひらがなの問題出されてるようなもんスよ」 「お前はひらがなを人に聞くのか」 さすが帰国子女だ。 一瞬だけ、意地悪く人を小馬鹿にしたような雰囲気が感じられた。ハッと顔を上げると、口の端が微かに吊り上っている。滅多に表情を動かさない手塚にしては、珍しい。 「そうじゃなくて! たとえば、の話じゃないスか!」 思わず見とれてしまったのを隠すようにしてムキになってしまったリョーマに対し、手塚はそんな雰囲気はすぐに消して、またいつもの無表情に戻った。 「わからないところがあるなら教えてやる。何がわからないのかをはっきりさせて持って来い。それから…」 「…それから?」 「勉強するなら、何もお前の家でやる必要もないだろう。図書館で十分だ」 それだけ言って、手塚は行ってしまった。家に誘うのは失敗したようだ。やっぱり、何を考えているのかわからない。気持ちを弄ばれているような気にさえなってくる。 勉強に付き合ってくれようとするところを見ると、全く脈がないわけでもないみたいだが…。 「…45点ってとこか…」 まだまだだね。 呟くと、リョーマは図書館へ向かう手塚の後を追っていった。 |
お題その1は、第1問「45点」です。 最初に思いついたのは、フツーに「テストの点数が45点だった」ってモノだったんですが…何かつまんないなぁ、と思って。思ったら、「誘い方の点数」になってしまいました(笑) 100点満点だったら、きっと部長はリョーマの誘いに乗って家に来てくれるんです(笑) 加筆修正の上、リョ塚本「Hold me tight !」に収録してあります。 |