ビスケット

 いつもの休日と変わらない、穏やかな昼下がり。柔らかな光が差し込むリビングで、二人は好き勝手に寛いでいる。テーブルの上には二人分の紅茶のマグカップ。真ん中に、ビスケット。皿にあけることもせずに、パッケージを開けたそのままで転がっている。誰かの海外旅行の土産にもらったような気がするが…よく覚えていない。思い思いにそれをつまんでいると、時折、手がぶつかる。
「あ、ごめん」
「すまない」
 そんな言葉を交わして、また自分の世界に没頭する。
 ぱらりと本のページをめくる音と、ビスケットをかじるサリサリという音、カップを置く時のコトリという音だけが静かに響く。
 本を読み終わり、ビスケットがなくなる頃、自然に二人の視線が重なる。
「夕飯、どうしようか」
「そうだな…」
 空になったビスケットのパッケージを弄びながら呟く。外は夕暮れ。
「あんまりおなかすいてないよね」
「…そうだな……」
 ずっとビスケットを食べていたのだから、無理はない。
「じゃあさ、アンタを食べてもいい?」
「………」
 突飛なことを言い出すのも、いつものこと。
「…お前の頭の中は、それしかないのか…」
 悪態をつくも、言って聞くようなリョーマではない。
「だって、好…」
 不意に手塚が口付けて、リョーマの言葉が遮られる。
 仄かにビスケットの香料が香るキス。
「…手加減しろよ」
「りょーかい!」
 その場で手塚のメガネをはずし、そのままそっと押し倒す。引き寄せ合うように、二人の唇が重なってゆく。
 そんな午後のひと時。

「お題」11個目、第19問「ビスケット」。
突然、ポッとこのシーンが浮かんできました。…まぁ、ぶっちゃけ、別にビスケットである必要はないんですが(苦笑)
てか…外国のビスケットとかって、独特の味があるんだよねぇ。けっこう好きです。

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物書きさんに20のお題