「出会った頃の俺とアンタの目線って、こうだったんだよね」 椅子に座った手塚を見下ろし、リョーマが呟く。 「そうだな」 出会ったあの頃は、30センチ近くの差があった。その差は今や、十分の一にまで縮まっている。既に成人し、成長期も終わった今となっては、もうこれ以上変わることはないだろう。 当時から「絶対アンタより大きくなる」と言い張っていたリョーマにとっては、少々不満の残る結果となった。 「俺…結局アンタよりでかくなれなかった…」 「それでいいのではないか?」 手塚の頭を胸に抱き締めてぶすっと呟くリョーマに対し、手塚の声にはどことなく笑みが含まれている。 「どーして」 「お前、いつか俺に勝つんだろう? そうなった時、何かひとつでもお前に勝っていないと、俺の具合が悪い」 「何それ。アンタも相当負けず嫌いだね。そもそも勝たせてくれる気なんてないくせに」 二人がプロとして歩き始めて数年が経つ。その間、手塚は一度も負けることなく、文句なしに世界の王者として君臨し続けている。リョーマも負けてはいない。誰にも負けることなく、全勝街道を突き進んできた。優勝経験も何度もある。…ただし、手塚のいない大会であるならば。 このところ、リョーマは「優勝」の二文字から遠ざかっている。手塚と同じ大会に出る機会が増えたためだ。リョーマは未だ、手塚に勝ったことがない。同じ大会に出ると、毎回のように決勝で顔を合わせ、毎回、打ち負かされている。 追いついたと思うと、突き放される。本当に追いつけるのかと疑わしくなることすらある。それでも、手塚はリョーマとのその追いかけっこを楽しんでいるらしい。 リョーマが知る手塚の敗北は、ただ一度だけだ。中学生の頃の、関東大会1回戦。氷帝学園の跡部とのシングルス1の試合で、肘を庇ったことによる肩の負傷が原因の敗戦だった。その後、1人で部を離れ治療に専念していた手塚は、帰ってきた時には一回りも二回りも大きくなっていた。リョーマ自身、手塚がいない間に随分成長したと自負していたのに、手塚はそれよりも更に大きくなっていた。 身長差は確かに縮まったが、テニスの差はどうなのか。身長ほど縮まっているのだろうか。 「まあな。だが…『絶対』はあり得ない。いつまでも勝ち続けるのは困難だろう。いつか負ける日が来るだろうな。そうなった時…プロとして初めて負ける時、その相手はお前だったらいいと思っている。俺を最初に負かすのは、お前であって欲しいと願っている」 だから早く俺に勝て。俺がこの座にいるうちに。 完治させたと言っても、古傷というものはいつ再発するかわからない。あまりモタモタしていては、リョーマより先にケガに負けてしまうかもしれないのだ。そうなる前に、自分に勝てと、手塚の目はそう語っている。 「国光さん…。任せといてよ。俺、がんばるから。絶対、アンタに最初に勝つから」 「そうか?」 「空約束にならないように、がんばりまっす」 「…期待していよう」 おどけた口調とは裏腹に真剣な目のリョーマを、手塚は満足そうに見つめている。 「任せといて」 これが誓いの証拠だとばかりに、リョーマは手塚にそっと口付けた。 |
「お題」10作目、第8問「空約束」。やっと半分だ…。 …で、結局どうなるのかは、自分の中では自己完結してます(笑) いつか書きたい部分ではあるんですけどね。 てか…実際問題、そんな長期間に渡って勝ち続けることができるものかどうかということは、まぁ、マンガなので深くは考えないことにして(笑) …パパりんだって、負けナシで勝ち続けていたワケだしな。2人には、長いこと世界ランク1位・2位に居座り続けてほしいものです。 |