常夏

 4月の半ば、毎年のようにリョーマが話を持ちかける。
「ねえ、手塚さん、今年のゴールデンウィーク、どこ行く?」
「ゴールデンウィーク?」
「そう。ほら、いっぱいもらってきたの。パンフレット」
「……」
 もうそんな時期か…。と思いつつ、手塚はリョーマがバッグから取り出す紙の束に目を遣る。毎年毎年、この時期になるとリョーマは大量のパンフレットを持ってくる。国内旅行もあれば、海外もある。パッと見ても、さすがに繁忙期であるこの時期はどこも高い。
「国内もいいけど…ホラ、こんなのどう? グァム。飛行機で3時間で常夏の島、だって。下手な国内よりよっぽど近いよ」
 そう言ってリョーマが示すのは、南国特集のパンフレット。
「…」
「こういう南国の島とかだと気分も開放的になるし。そんでさ、想像してみてよ」
 見るとはなしにパンフレットを眺めながら、手塚はリョーマの言葉に耳を傾ける。
「青い海の穏やかな波。白い砂浜。パラソルを広げて、のんびり寝転んで」
 言われるままに、その情景を思い浮かべる。
「日没の頃には、真っ赤に染まった海と沈む夕日見ながら、二人でテラスに座ってグラスでカチーンとかしてさ。波の音だけが、周りに響いて」
「……」
「あ、でもグラスは2個じゃない方がいいな。1個のグラスで、ストロー2本差して二人で一緒に飲むの。そして夜はそのまま、満天の星空を見ながら情熱的なひと時を過ごす…。いいと思わない?」
 言われたままの情景を想像していた手塚だが、さすがに最後の「夜のひと時」とやらはあまりに生々しくなってしまい、思わず我に返る。
「………お前のアタマが常夏だな…」
「何それ。まるで俺がいっつもおめでたいことしか考えてないみたいじゃん」
 照れ隠しに言ってやると、案の定、リョーマは口を尖らせた。
「…でもさ、ホントに、いつか行ってみたいね、こういうとこ」
「…そうだな」
 毎年リョーマは大量のパンフレットをもらってくる。だが、旅行が実現したためしはない。二人だけで何日もの旅行をするには、まだ二人とも若すぎた。だから毎年、パンフレットを見ながら空想の中だけで旅をする。
 いつか、その空想が実現することを願いながら。

久しぶりの「お題」です。9作目になります。第12問、「常夏」。
「お前のアタマが常夏だな」というセリフが思い浮かんでから早●ヶ月…。やっと形になりました。…でも、何かが足りない…。
…まぁ、「お題」に関しては、「日常の一コマを切り取った」カンジで書ければいいな、と思ってるんで…こんなモンでもいいんですが…でもちょっとコレはあまりに短い気がする…。うーんうーん。…また「お題」を本にする機会があったら、じっくり腰を据えて書くことにします…。

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物書きさんに20のお題