久々の休日、リョーマはリビングの床に座りソファーに寄りかかって雑誌を眺めていた。定期購読しているそのテニス雑誌は、今月は特集として何人かのプロデビューしたばかりの新進気鋭の選手の記事が紹介されている。 この中の何人が、上まで上って来られるか。そんなことはリョーマの知ったことではない。誰が挑んできても、叩き潰すだけだ。中には目標として自分達の名を挙げ、その瞳に見込みのありそうな強い光を宿した者もいるが、そう易々とこの座を明け渡す気などない。手塚だってそうだろう。 とは言え、リョーマも手塚も、数年前は彼らと同じ「新進気鋭の新人」だったのだ。自分達も、こんな風に紹介されたことがあったっけ…。そう思うと、不思議な気分だ。 コトリ、とリョーマの横に何かが落ちた。見ると、投げ出された手。振り返ってソファーの上を見ると、そこにいる人物は眠りこけてしまっている。本を読んでいて、そのまま寝てしまったらしい。 リョーマは、読んでいた雑誌をテーブルの上に放り投げ、その手を取った。幼い頃からラケットを握り続けてきたその手は、時には豆もできただろうし、皮がむけたことだってあるだろう。決して、キレイなだけの手ではない。 しかし、そんなことを感じさせないほど、手塚の手は華奢な印象を与える。形が整っていて余計なものがないせいか、もともと骨が細いのか。指が長いのもその一因だろう。まるで造形美のようだ。しかし、この手が造形などではないことは、リョーマが一番よく知っている。 リョーマの髪を撫でる時の優しさ。コートでラケットを握る時の力強さ。そして、シーツを握りしめる時の艶かしさと、リョーマの背に縋りついて爪を立てる時の切なさ。 世界の王者として君臨する手と、リョーマの恋人としての手。様々な表情が全てひとつのところに同居している。作り物では、あり得ない。 その指の一本一本に、恭しく口付ける。人差し指、中指、薬指……啄むような口付けを繰り返していると、その手がくすぐったそうにぴくりと震えた。 「何をやっている…」 目を覚ましたらしい。気だるげな声が咎めるように問う。 「ん…したくなっただけ」 答えになっていないのは承知の上で、そのまま口付けは徐々に腕を這い上がっていく。肘、二の腕、シャツの袖を捲って、肩にも口付ける。そして首筋。前の晩につけた跡に吸い付き、更に濃く刻み込む。 「…おい」 「キスだけ」 そしてリョーマの唇が手塚のそれに辿り着き、しばらくは触れるだけの口付けを繰り返す。少しずつ舌を侵入させていくと、手塚の体が微かに強張った。リョーマの髪を掴んで引き剥がそうとする素振りを見せるが、構わずに手塚の舌先を探し当てれば、どちらからともなく舌を絡め合い、深く深く求め合う。 「ん……」 手塚が苦しげな息を漏らす頃になって、ようやく解放する。離れた唇は糸を引き、目許は赤く染まっている。息を弾ませて潤んだ瞳でリョーマを見上げてくるその様は、壮絶に色っぽい。 「キスだけ」と、そう言ったのに。深い口付けを交わすうち、体はその気になっている。互いにそれがわかっているから、苦笑して顔を見合わせる。 「…ごめん。やっぱり俺、ガマンできないかも…」 「まったく…仕方ないな…」 呆れた口調ではあるが、怒っているわけではない。手塚の手がそっとリョーマを抱き寄せた。 「…っ……」 漏れ出る声を抑えようと、指を噛む。 「ダメだよ。傷ついちゃう。声、聞かせて。俺の好きな声…」 そっと手を引き剥がし、噛んでいた指に口付ける。 この手が、リョーマは一番好きなのだ。 |
「お題」5作目。やっと4分の1まできました。第14問「華奢な指」。 …「指」っつーより、「手」ってカンジ? でも、指だけにスポットを当てようとすると難しいんだよ…。リョーマって、部長の左手ってすっごい好きそうなカンジしません?? ……「指」だの「手」だのから、どーしてこういうことになるんだろう(笑) 真昼間(←だったらしい)にソファーでヤっちゃいますか。(おい) 微妙に「行為の後」も考えてたんだけど、そこまで書いちゃうのはどうだろう。と思ってやめました(笑) てか、コレ…何年後なんだろう(笑) こういう、「将来」をイメージしたものも、ある意味パラレルになるのかしらねぇ? 加筆修正の上、リョ塚本「Hold me tight !」に収録してあります。 |