その日も、リョーマは手塚を家に呼んでいた。一応、テスト勉強という名目ではあるが、単に一緒にいたいだけである。それに、リョーマの家にはテニスコートがある。勉強に飽きればすぐにテニスができるという殺し文句もあった。 約束通りの時間にリョーマの家にやってきた手塚は、重そうな袋を提げていた。 「母が持って行けとうるさくてな…」 そんな言葉と共に差し出された袋を覗き込んだリョーマの動きが一瞬止まった。甘酸っぱい香りを漂わせながら、黄色い大きな玉がいくつも入っている。 「あ…グレープフルーツ?」 「ああ。親戚からもらったんでな。おすそ分けだ」 「………」 袋の中の黄色い物体を睨みつけるリョーマは、何故か浮かない顔をしている。 「どうした?」 「なんでもない…。ありがと」 慌てて礼を言うリョーマだったが、やはり取ってつけたようなその態度に、一瞬、手塚の顔が曇る。 「もしかして、グレープフルーツは嫌いだったか?」 「そういうワケじゃないけど…」 「なんだ?」 「あんまり食べないんスよね。なんか、すごい舌がぴりぴりするんだもん。…少し苦いし」 柑橘類の酸味が苦手なのか…。やはり子供だ。可愛いところがあるじゃないか…。などと、自分もたった2歳しか変わらないまだ子供であることを棚に上げて、手塚は思っていた。 「せっかく俺が、お前と食べようと思って持ってきてやったのに…」 溜息交じりのその言葉を聞いた途端、リョーマは硬直して手塚を見上げた。次の瞬間には、顔が赤くなる。 「…アンタ…こういうことにはずいぶん悪知恵働くよね」 ストレートに「好き嫌いは良くない」などと言っても聞かないリョーマの性格をよくわかっている。 「お前ほどじゃない」 「わかった。俺の負け。食べるっス」 「ねえ、食べさせてよ」 「…は?」 大きい玉を二つ、洗って皿に載せて持ってきたリョーマの第一声がこれだった。 「食べさせて」 そう言って口を開けて待つリョーマは、まるで親の餌を待つ雛鳥のようだ。 「お前な…」 「だって、俺と食べるために持ってきてくれたんでしょ? だったら食べさせて」 手塚としては、先ほどの自分の言葉を見事に逆手に取られた形だ。そこまで言われては仕方がない。呆れつつも手塚は、一房皮をむいて口に放り込んでやる。 しばらく独特の酸味に顔を顰めるリョーマだったが、ふと、グレープフルーツの皮を剥く手塚の手を掴んで遮った。 「じゃ、俺も食べさせてあげるっス。口開けて」 「いや、俺は……」 「食べさせてあげるってば」 手元にあったものを奪われてしまっては仕方がないので、手塚も口を開ける。皮を剥いたリョーマは、その実を口に含むといきなり手塚に口付けた。口移しで、手塚の口の中にグレープフルーツを押し込む。 「!!」 「…おいしい?」 怒鳴ろうとした手塚だが、口に物が入っているので言葉が出ない。 「こうやって食べるとさ、酸っぱくても美味しいっスね」 そういう問題じゃないだろう!だの、何を考えているんだ!だの何だのと言いたいことはいろいろあっても、妙に楽しそうなリョーマの顔を見てしまっては、口をもぐもぐさせながらそっと溜息をつくしかない手塚であった。 |
「お題」6作目は、第13問「グレープフルーツ」。おぉををを…前回の更新から1ヶ月以上…っつーか2ヶ月近く開いてしまった…。ガクッ。 えぇ、結局は、二人がイチャイチャしてるだけなんです。それでいいんです。ラヴラヴ万歳!!(開き直ったよ、コイツ…) …はっ、この出だし、「手土産」でも使えたんじゃ…? |