手塚が肩の治療のため九州へと旅立った日、リョーマは1本の鉛筆を買った。 この鉛筆を使い切ったら、ケガを完治させて帰ってきてくれる。 そんな願をかけたのだ。 おまじないのような願掛けなんて、女々しいような気がしないでもない。だが、そうでもしないととても寂しさに耐えられないような気がしたのだ。 …そう。寂しい。 ようやく手塚から、直接の言葉ではないにしても「好きだ」という意思表示をもらったばかりだというのに、どうして離れ離れにならなくてはならないのか。これからもっともっと、デートしたりテニスをしたり、やりたいことはたくさんあったのに。 治療のためだから仕方ないとは言っても、寂しいものは寂しいのだ。治療が済めばすぐに帰ってきてくれる。そう思ってはいても、それがいつになるかの保証はない。保証がないから、まるで二度と会えないかのような絶望感に襲われる。だから、願をかけることにした。 シャープペンとは違って、鉛筆はすぐに芯が丸くなって書きにくい。それでも使い続ける自分を、健気だと思う。 鉛筆の先は、きれいに削られている。ナイフで削るのも、初めはずいぶんとガタガタだったものだが、さすがに慣れてきた。 常にペンケースの中に持ち歩き、ノートを取ったり、ちょっとしたメモを取ったりするのにもその鉛筆を使っている。 早く使い切ってしまいたくて、普段は書いたことのない日記のようなものも書き始めてみた。「会いたい」という気持ちでページが埋められることもあれば、その日の出来事が淡々と綴られている日もある。部活や試合の詳細が書かれていることもある。 一度、戯れに手塚の似顔絵を描いてみようとしたが…それは余りにも似ていなかったのですぐに消してしまった。 しかし改めてノートを読み返してみると、手塚宛の手紙のような文体になっているから不思議だ。手塚にこれを読ませてみたら、どんな顔をするだろう。手塚がいない間、リョーマがどんな気持ちでいたか、いくら人の感情に鈍い手塚でもわかってくれるだろうか。 …そんなことはしないけどね。恥ずかしい。自分ばっかり寂しがってるみたいなのも、何か癪だし。 そんなことを考えながら、リョーマはノートを閉じ、鉛筆を置いた。 その鉛筆も、だいぶ小さくなってきた。まともに字を書くのは、もう難しい。 それでもリョーマはその鉛筆を使い続ける。 もうすぐ使い切る。そうしたら、きっと帰ってきてくれる。 あと、もう少し。 |
お題2作目は、第6問「小さくなった鉛筆」です。 …健気でカワイイなぁ、王子…。(おい) 鉛筆1本使い切るのって、意外と大変なんだよね…。短くなると書きにくいし。小さくなってきたと思ったらなかなか減らないし(笑) …原作で部長が帰ってきてくれるのは、いつになるのやら……。 加筆修正の上、リョ塚本「Hold me tight !」に収録してあります。 |