二藍

 その夜、マイクロトフは微かな呻き声を聞いたような気がして目が覚めた。ふと隣を見ると、眠っているカミューが顔を顰め、額に汗を浮かべている。
「カミュー?」
「……っ……う……っっ!」
「カミュー? おい、カミュー! 起きろ! 大丈夫か? おい!」
「っ……ぐ……っ…」
「カミュー!」
「……っっ!!」
 激しくマイクロトフに揺さぶられ、飛び上がる勢いで目を開けたカミューの息は荒い。
「…あ…マイクロトフ…? ここは…」
「タッセ城の、俺たちの部屋だ。大丈夫か、カミュー…。どうしたんだ?」
「…夢、か……」
 ほうっ、と息を吐き、目を閉じる。全身にびっしょりと汗をかいていた。
「嫌な夢でも見たのか…?」
「ああ…。ルカ・ブライトの……」
「ルカ・ブライト…」
 その名には、マイクロトフでさえ戦慄を覚える。実際、今日の戦いでも、倒せたのが不思議なくらいだった。そして、その戦いの最中、カミューは…あまりに強大すぎるルカの力の前に、危うく、命を落とすところだったのだ。
「なあ、マイクロトフ。俺たちは、今まで幾度も戦いに赴き、何度も命を危険に晒してきた。だが…俺は、今回ほど、恐怖を感じたことはなかった」
「………」
「…怖かったんだ。こんなところで死ぬのか、と思ったら…」
「カミュー…」
「いや…死ぬのが怖かったわけではない。死の恐怖よりもむしろ…」
 あの時に感じたこの気持ちは、何だったのだろう。
「…お前の側にいられなくなることが、辛かった」
 マイクロトフは、何も答えない。神妙な面持ちで、カミューの言葉を聞いている。
「今まで、ずっと…騎士になってからずっと、お前と2人で、同じ道を歩いてきた。それが断ち切られるのか、と思ったら…」
「だが、お前はこうして生きている」
「ああ。それでも…いつ死ぬかなんて、誰にもわからない。いずれは、老いて別れが訪れるにしても…どんなに若くても、ある日突然失ってしまうこともある…」
「カミュー…」
「…妙なことを言ったな。起こしてしまってすまない。もう寝よう」
 マイクロトフは、相変わらず思い詰めたような表情をしている。
「カミュー」
「ん?」
「死ぬな」
「マイクロトフ…」
「あの時、俺も生きた心地がしなかった。このままお前を失ってしまうのかと思ったら、何も考えられなくなった。常に隣にいたお前がいなくなるのか、と思ったら…」
 カミューの胸の奥に、熱いものがこみ上げる。
「もし、あのままお前が戻らなかったら、俺は…お前を庇いきれなかった自分を、一生許せなかっただろう。カミュー…お前を失いかけたその時、俺は気付いたんだ」
 そして、マイクロトフはカミューの耳もとに口を寄せ、そっと囁いた。
「俺は…お前のことが、好きだ」
「マ…イクロトフ…」
 その言葉に思わず見つめた漆黒の目は、真剣そのもの。もともと、マイクロトフは冗談でそんなことを言える人間ではない。
「これから先もずっと、お前と共に歩みたいと…お前を失いたくないと、強く思った。俺は…お前を、愛している」
 思わぬ告白に硬直するカミューを見て、マイクロトフは、はた、と我に返った。
「…す、すまない。埒もないことを言った。忘れてくれ」
「…参ったな…」
「す、すまない。忘れてくれていい!」
「いきなりそんな告白をされて…忘れられるわけがないだろう?」
「いやっ、だから、それは……すまん!!」
 慌てるマイクロトフに対し、カミューは、内心でどうしようもなく喜んでいる自分に気が付いた。
「謝らなくていい。俺も…そうだな、俺も同じ気持ちだよ。俺も、お前のことが好きだよ」
「え……」
 驚きに見開かれた、自分を見つめる瞳に、カミューはにっこりと微笑む。あの時に感じたこの気持ちは…。
「あの死の淵で、俺が感じたのも…お前と離れたくない、ずっと側にいたい、という思いだった。お前がこの感情を恋と呼ぶなら…」
 マイクロトフに抱きつき、その真直ぐな瞳を見つめる。
 愛しい。
 ただそれだけだった。
「俺も、お前を愛しているよ、マイクロトフ」
「カミュー…」
 そして、2人はどちらからともなく唇を合わせた。

私の中での、2人の馴れ初め話。どこから書こうか迷ったんですが、とりあえず一番「馴れ初め」っぽいとこだけ(笑) それでその後、雪崩れ込むんですよ(笑)(←何に)
しかし作者は、ここではた、と気付く。「このフロア…マチルダズの隣は確かシンとテレーズの部屋だった…!!」(笑) 更にその隣がビクトール&フリックだったっけか?  いや…隣がビク&フリならともかく、シン&テレーズって、それはどうよ…(笑)
てゆーか何つーか…一言言わせて。「展開早っっ!!!」(爆) それから…やっとタイトルつけました。アレだけ考えて…結局『むらさき』(←意味が)なのな…。

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