Das Liebes Geschenk

 今年も、その時期がやってきた。毎年、この日が近づくと、皆がどこか浮き足立ったようにそわそわする。友達同士で贈り物を交換したり、思いを寄せる相手へ心をこめた贈り物をしたりするのだ。
 若い男女は、思いを寄せるあの人が自分のプレゼントを喜んでくれるかどうか、あるいは、愛しいあの人が自分に何かプレゼントをくれるだろうか、と、それだけが最大の関心ごとになる。
 こういったイベントごとに夢中になるのは、やはり女性が多い。同盟軍本拠地でも例外ではなく、例え戦争中でもお構いなしだ。多くの女性と一部の男性が、プレゼントの準備に熱心になっていた。
 ある者はチョコレートやクッキーを作ったり、ある者はマフラーや手袋を編んでいたり、またある者は財布の中身を気にしながら高価な装飾品の店を何軒も見て回ったり。
 その「一部」の中に、元マチルダ騎士団・青赤両団長も含まれていた。今までは圧倒的に受け取るばかりであったが、今年は違う。互いの気持ちに気づき、恋人として付き合うようになったのだ。何よりも大切な愛しい相手に何か思い出に残るものをあげたいと、互いが思っていた。

 カミューの出身地であるグラスランドには、このような習慣はない。マチルダに来た最初の年、ある日突然贈られた大量の贈り物に唖然としたものだ。
 カミューはその容貌と物腰、更にはその卓越した実力から女性からの人気は高く、普段から多少の手紙や菓子などの贈り物を受け取ることはあった。が、その日はそれまでの比にならないくらい、多くの女性から贈り物を一度に受け取ったのだ。
 基本的に女性には優しいカミューのこと、不審に思いつつも差し出される物を笑顔で受け取っていたのだが、あまりの量に、流石に少々気味が悪くなった。
 そこで、既に親友となっていたマイクロトフに相談に行って、この習慣のことを教えてもらった、という過去がある。
 何か返した方がよいのだろうか、というカミューの問いに、マイクロトフの答えは「基本的には思いを寄せる相手に贈り物をする日だから、意中の相手でなければお礼の手紙程度でよいだろう」ということだった。

 今まではそれでよかったが、今年は違う。この聖なる日に、大切な相手に何を贈ろうか。二人とも、真剣に悩んでいた。
 贈り物の定番は甘い菓子類だが、定番だけに、毎年受け取る数も半端ではない。同じものばかりたくさんもらっても仕方がない、との思いから、二人とも何か違ったものをと考えていた。

 そして当日、生活の場が変わっても、例年の如く二人はまた菓子類を中心とした多くの贈り物をもらった。中には男性からの贈り物も混ざっていたようだが…まあ、気にはすまい。
 しかし互いに、相手へのプレゼントは、結局決まらずじまいだった。
 夜になって、二人はかねてから決めていた通り、カミューの部屋でグラスを傾けていた。が、互いにプレゼントを用意できなかった後ろめたさのためか、言葉はない。黙々と、グラスを空けていた。
 何も用意できなかったと知ったら、どんなにショックを受けるだろう…。どう言い訳をしたら、いいのだろう。
 互いに同じことを考えているとは夢にも思わず、二人はそれぞれ物思いに沈んでいた。
 しかし、このままでは埒が明かない。先に口を開いたのは、カミューの方だった。
「マイクロトフ…」
「何だ?」
「今日のためのプレゼント…何も用意できなかったんだ…。忙しかった、というのもあるけど…お前は甘いものがあまり好きではないから、何がいいか考えたんだけど、なかなか決まらなくて…。ごめん」
「…なんだ」
 カミューの決死の告白を聞いて、マイクロトフは安心したように呟いた。
「俺も…お前に何をあげたらいいか、わからなくて…何も用意できなかったんだ」
「…お前も?」
 マイクロトフの言葉に、カミューは心底驚いた。根が誠実なマイクロトフは、こういった時には必ず、何かを用意するだろうと思っていたのだ。実際、マチルダにいた頃には、この時期に付き合いのあった女性には必ず、それなりの物を贈っていたのを、カミューは記憶している。
「ああ…チョコレートだのクッキーだのという菓子類は、お前はたくさんもらうだろうから…そういうのではなくて、何かいい物はないかと考えたのだが…」
 結局、何も思いつかなかった、と、マイクロトフは申し訳なさそうに頭を下げた。
「なんだ…それじゃあ俺たちは、互いに同じことを気に病んで、悩んでいたわけか…」
 ほっとすると同時に、カミューには何とも言えない愛しさがこみ上げてきた。恋人となり、何度も体を重ねていると、気持ちや考え方までシンクロしてくるものなのだろうか。
「俺は、お前から何ももらえなくてもいいけど、お前には何かをあげなきゃ、と思っていたよ」
「俺の方こそ…俺はお前がいてくれればそれでいいが、お前にはそういうわけにはいかないだろうと…」
「俺だって、お前が側にいてくれれば、それで十分だよ」
 そう言ってカミューがにっこりと微笑むと、二人は唇を重ね抱き締め合い、そのままベッドに倒れ込んだ。

 戦いの最中、常に前線に立つ自分たち。みすみす死ぬつもりはないが、それでも、いつ何が起こるかわからない。
 そんな中、無事に二人で共に過ごせるというのは、何と幸せなことだろう。
 無事に、自分の側にいてくれること。それこそが、何よりも大切な、最高の、心からの贈り物なのだ。

 恋人たちの夜は、静かに更けてゆく。

2002年2月のオンリーの時に書いたものです。ちょうど時期がバレンタインの頃だったので、頑張ってバレンタインをネタに、ちっさい本を作りました。本その2。タイトルの意味は、「心づくしの贈り物」。
時期ものだからと言って普段の半分しか作らなかったら、当日完売状態になってしまってとってもビックリしたのも、いい思い出………。1ヶ月は残るだろうと思ってたのに……。(注:普段の部数自体がとっても少ないです)
本で書いたものと、文章は全く変えていません。タイトルだけ修正しました(笑) さすがにね、綴りのミスはね………。

ちなみに、「バレンタイン」という単語を出していないのは、わざとです。何かね…一応、世界が違うからね…。あまり「地球」的なものを出したくなかったのよ…。
ついでに言うなら、私、どうも日本のバレンタインってのがさ…。別に、男から女に贈ったっていいじゃんか。外国では男女関係ないぞ。私にもチョコくれよ。(←ソレかよ)

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"Ich liebe dich." "Du gefaellst mir."
そんな言葉なんかでは、とても足りない。