「マイクロトフさん…聞きたいことがあるんですけど」 同盟軍の盟主である少年シェイと、その義姉ナナミは、ある疑問をぶつけるべく、元マチルダ騎士団青騎士団長を呼び止めた。 「これはシェイどのにナナミどの…。俺に聞きたいこと、とは?」 「その『炎のエンブレム』、どうして外さないんですか?」 戦いの時は鎧の下に隠れているが、普段城内にいる時など鎧をつけていない時には、その服に誇らしげに『炎のエンブレム』が鎮座しているのがわかる。 「他のもっと強力なアイテムに付け替えればいいのに」という周囲の言葉にも、この元青騎士団長は曖昧に頷くだけである。 ここまでこだわるのなら、何か特別な事情があるに違いない、と思い、シェイとナナミはマイクロトフに直接聞いてみることにしたのだ。 「これですか? これは…ちょっとした経緯がありまして」 「いきさつ? どんな?」 「…数年前、まだ、俺たちがマチルダ騎士団の…それぞれの団長になる前の話です」 そう言って、マイクロトフは語り始めた。 その日、カミューは怒っていた。きっかけは些細なことだった。小さな火の不始末が大きな火事になるのはよくあることで。 元々は、カミューの秘蔵のワインをマイクロトフが誤って半分ほど飲んでしまったとか何とか…。その口論がこじれにこじれ、とうとうカミューの怒りが爆発した。 「…もういい」 そう言って右手を掲げる。 「ま、待て! 落ち着け!」 「烈火よ…全てを、焼き尽くせ」 後に残されたのは、黒焦げになったマイクロトフ。倒れ伏し、ぷすぷすと煙を吹いているマイクロトフを見て僅かに目を見開いたのは一瞬のこと。 「…ふん。自業自得だ」 そう吐き捨ててその場を立ち去った。 黒焦げになったマイクロトフを発見した騎士たちが、すぐに慌てて医務室へと運び込んだ。マイクロトフとカミューとがケンカをするのは日常茶飯事であったし、 その際にカッとなったカミューが『烈火の紋章』を発動させてしまうのも今回が初めてではないからそんなことには今更驚かない。が…さすがに、今回はひどすぎる。殺しかねないほどのダメージではないか…。 軍医の手当てで、マイクロトフはすぐに意識を取り戻し、傷も大きなものは消えていた。 「全く、お前さんの相棒にも困ったものだな」 殺す勢いだったではないか、という軍医の言葉に、マイクロトフは恐縮するしかない。 「はあ…普段は穏やかなのですが…」 「よっぽど、逆鱗に触れるようなマネをしたんだろう」 「…あれほど怒るとは、思わなかったのです…」 面目ない、と頭を下げるマイクロトフ。 「まあ、ケンカするほど仲がよい、という言葉もあるが…ほどほどにせんとな」 その目が、暗に「周りの迷惑も考えろ」と言っているのは、さすがにマイクロトフにも察せられた。 「はい…」 「しかしお前さんも、よくもまあ毎回毎回、耐えているな」 「はあ…何だかんだ言っても、カミューは俺の親友ですから…。一時の諍いは、すぐに修復できます。それに…今回ばかりは、完全に俺に非がありますし…」 呆れたように頷くと、軍医は机の引き出しの中から、ひとつのアイテムを取り出した。 「持って行け。あの赤騎士と共にいる限り、きっと役に立つ」 「これは…?」 「『炎のエンブレム』だ。身につけると、火に対する耐性ができる。火によるダメージをいくらかでも軽減してくれるはずだ」 「そんな…受け取れません」 そんな貴重な物を…、という遠慮の気持ちもあるが、何となく、こんなものを付けているとカミューがまた「俺に対する当てつけか!?」とでも言い出して怒りを爆発させそうな気がするのだ。 「いいから持って行け。本当なら『火封じの紋章』でも付けさせたいところだ。火のダメージが完全に無効になるからな。だが生憎、そんな大層な物は持っていないからな、それで我慢しろ。 ケンカ如きでこう何度も医務室に来られると、俺も仕事にならん」 「………」 それはその通りだろう、とマイクロトフも思うので、何も言い返せなかった。 自室で、大量に中身の減ってしまったビンを眺めながら、カミューは物思いに沈んでいた。 黒焦げになって煙を吹いていた姿が甦る。つい、本気でやってしまった。思わず、自分が使える最大呪文を飛ばしてしまったのだ。 自分の魔力が上がっていたことを、完全に忘れていた。あのくらいで死ぬような柔なマイクロトフではないが…いくら何でもやりすぎた。 もし、マイクロトフがケガをしていたりして体調が万全ではなかったら、いくら自分と火との相性が実はあまり良くはないとは言っても、あのレベルの呪文なら、あるいは一撃で…ということも十分にあり得る。 そのことに気付いた時、背筋を冷たい汗が伝った。 謝ろう…。もともと、些細なことが原因だったのではないか…。こんなことで、かけがえのない親友を失いたくなどない。 「あ…カミュー…」 治療を終えたマイクロトフが医務室から出ると、扉のわきにカミューが立っていた。 「マイクロトフ…大丈夫か?」 そう言って、マイクロトフの体のところどころに巻かれた包帯にそっと触れる。 「済まなかった…つい、カッとなって…。自分の魔力が上がってることを、完全に忘れてたんだ…。だから、つい本気で…」 「いや、俺の方こそ…お前が大切にしてたものを…」 「それはもういいんだ。酒はまた買えばいい。けど、お前は…人の命は、失われたら買い直すなんてことはできない…。悪かった。許してくれるか?」 「許すも何も…俺の方こそ、許してほしい」 「許しを請わなければならないのは、俺の方だ。俺が大人気なかったんだ」 「いや、そもそも俺がお前の酒を飲んでしまったからいけなかっ…」 「お前は悪くないと言ってるだろう!?」 思わず声を荒げて、はた、と我に返る。 「いや…俺はお前と仲直りしに来たんだ。もうその話はやめよう」 そしてふと、マイクロトフの手に握られた物に気付く。 「マイクロトフ…その、手に持っている物は何だい?」 「あ…これか。軍医どのが持ってゆけ、と…」 「『炎のエンブレム』か……。貸してみろ」 マイクロトフは、カミューがまた怒り出すのではないかと思っていた。こんな物、必要無い、と言って壁に投げ付けるなり窓から投げ捨てるなりするのではないか、と…。 が、その予想に反し、マイクロトフの手からそれを受け取ったカミューは、エンブレムの止め具を外し、マイクロトフの服に付けてやった。 「手に持っていても仕方ないだろう。ちゃんと身に付けないと…」 「カミュー…」 「俺は…お前を傷つけたいわけではないんだ。もし…また俺が何かのはずみにお前に対して紋章を発動させてしまっても、これがお前を守ってくれる」 それに…自分に対しての戒めにもなる。 「カミュー…ありがとう」 その言葉に、にっこりと微笑み、 「さて。せめてものお詫びとお前の回復を祈って、今日の夕食は俺が奢ろう」 「…と言うわけで、これはカミューが俺のために付けてくれた物なのです。いわば、あいつの優しさの象徴と言うか…。だから、外す気はありません」 そう語るマイクロトフは、心なしかはにかんでいるように見える。 「そ…そうですか…。よかったですね…」 何が良かったのかはわからないが、とりあえずそう答えておくしかないシェイであった。そもそも『烈火』を発動させる時点で優しさも気遣いもへったくれもないだろう…と思うのだが、 そんなことを口に出してはいけない…と言うより、口には出さない方がいいような気がしたのだ。 「マイクロトフ、こんなところにいたのか。…これはシェイどのにナナミどの、何を話しているんです?」 そこへカミューがやってきた。 「え、ああ、カミューさん…。いえ、何でマイクロトフさんは『炎のエンブレム』を外さないのかなー、と思って…そのいきさつを…」 何となく、正直に答えてはいけない気がしたが、つい答えてしまった。その表情を見て、カミューは顔を顰めた。 「経緯? …マイクロトフ、お前、それをまさか正直に全部話したのか…?」 「え、あ、いや、その…」 「マイクロトフ…どうしてお前は、そういう余計なことを言うんだ…」 カミューの顔から笑顔が消えた。 「あっ、じゃ、じゃあ、僕たちはこれで…っ!」 シェイとナナミは、そそくさとその場を立ち去った。その後マイクロトフがどうなったかは、知る由もない…。 |
この話を書いたきっかけは、2人の初期装備や初期データを全部メモしてて、「…何でマイクロトフの固定装備に『炎のエンブレム』なんだ?」と思ったことです。 カミューさんの『しんくのマント』については、一部で言われるあの「ダサマント」(笑)のことかな、と思えばいいんですが…『炎のエンブレム』…理由がわからない! 何故!? しかも、この『炎のエンブレム』…効果が「火に強い」とある。「火」と言えば、カミューさん。てことは…もしかして、そういうことなんですか!?(←どういうことヨ!!) 「きっと、カミューさんがキレて『烈火の紋章』を発動させた時にダメージを軽減するために違いない」と思い込んだことで、こんな話ができました(笑) 「優しさの象徴」と言うより「愛の証」ですな。 けど、この話自体が時期的には恋人になる前だと思うので、「愛」ではなく「優しさ」ってことで。…もしかして、これ……ギャグ?(笑) タイトルつけたんですが…このタイトル、どうなんだろう(笑) …いいさ、ギャグだから……。 |